統合失調感情障害日誌

統合失調感情障害を患っている管理人のこれまでの日誌です

統合失調感情障害の位置付けとは

医師から統合失調感情障害と告げられて、ネットでググってみたが情報が極端に少ないことに驚いた。統合失調感情障害は現在の精神医学でも未解決の疾患であるようだ。

医師は患者本人の主観的体験や自覚症状を聞き、可能であれば家族や周囲の陳述から行動上の問題などの情報を得て、面接時の表情・態度などと併せて統合失調症状および気分症状の診断を行う。その両症状の同時的な存在で統合失調感情障害の診断が考慮される。

精神疾患の国際的な診断基準であるDSM-5の統合失調感情障害の基準を次に示す。

診断の際に参考にするのが上表のDSM-5だ。

上表で、基準A1の抑うつ気分とは、「その人自身の言葉か、他者の観察によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分」である。

基準Aでは統合失調症状と気分症状が同時に見られることを規定している。統合失調症の基診断準Aには幻覚、妄想、まとまりのない会話、の3つがあるが、このうち2つ以上があればよい。

また統合失調症の診断基準Bでは、仕事や対人関係などの日常生活の能力が著しく制限されているという条件があるが、統合失調感情障害にはそうした条件はない。このことで統合失調症に比べて統合失調感情障害ではより軽症なケースがありうることになっている。

基準Bは、うつ病や双極性障害など気分障害との切り分けのために設けられている。同様に基準Cは抑うつ症状がみられる統合失調症との切り分けのために設けられている。

DSM-5では統合失調症や双極性障害と区別するための基準が、以前の診断基準であるDSM-Ⅳに比べて明確になっている。また縦断的(時間的)な観点が取り入れられており、症状の経過によって病名が変わる場合があり得ることになる。

統合失調感情障害の気分障害は、うつと躁(軽躁)を繰り返す双極型と、うつのみのうつ病型の二つのタイプに分けられる。

予後に関しては、双極型は完治する場合もあり、予後良好とされている。一方、うつ病型に関しては予後不良の場合が多いとされている。

統合失調感情障害は、統合失調症と気分障害との中間群の特徴を示すことから、歴史的に多くの解釈がなされてきた未解決な疾患である。

統合失調症と統合失調感情障害の双極型は統合失調症と双極性障害とに連続した疾患であるという考え方と、統合失調感情障害は単独の独立した疾患とする考え方がある。

ここから、2010年に第106回日本精神神経学会総会での教育講演として「統合失調症の診断を考える ーー分子生物学および精神病理学の見地からーー」との題で、自治医科大学精神医学教室の加藤敏氏が著した論文から統合失調感情障害の位置付けに関係する部分の要点を記述する。

統合失調症と双極性障害を明確に異なる疾患として分類したのは、18世紀半ばに生まれたドイツの有名な精神医学者クレペリンである。これ以降、近年までクレペリンの説は当然のこととして信じられてきた。

この二分法に対してイギリスの Graddock, Owen らは真っ向から反対する主張を行なった。近年の分子遺伝学的知見に加え、同一家系に統合失調症と双極性障害、あるいは統合失調感情障害が発生する例が少なくないことを根拠に、クレペリンの二分法はもはや有効期限が切れていることを説いた。またこれまでの遺伝子研究を検討し、統合失調症と双極性障害で少なからぬ部位に共通の感受性遺伝子(*1)が見出されていることを重視している。

やはりイギリスの Murray は、統合失調症と双極性障害、統合失調感情障害を精神病の症候群と捉え、これらの症候群に通底する「精神病を促進する共通遺伝子」を想定する一方、各症候群に特有な遺伝子-環境相互作用が加わり、神経発達性の障害である統合失調症と、社会的な不利が引き金となる双極性障害の発症をみるとの考え方を提出している。

Glahn らは、統合失調症患者、統合失調感情障害患者、精神病性双極性障害患者(*2)、非精神病性双極性障害患者、健常者を対象に digit span test(*3) を行なった。その結果、精神病性の既往のある症例(統合失調症、統合失調感情障害、精神病性双極性障害)のみに、ワーキングメモリの障害があることが明らかになった。

彼らの論稿では、統合失調症と精神病性双極性障害は連続的な病態であることを示唆する観点が打ち出されている。

最近、統合失調症を感情障害に包摂しようとする大胆な考えがアメリカの Lake らから出されている。「統合失調症は重篤な感情障害である」、「統合失調症と双極性障害、統合失調感情障害は単一疾患である」と主張する。

この提案は、統合失調症のなかで何らかの躁病性、ないしうつ病性の病態が認められる事例は、双極性障害とみなそうという趣旨と受け取れ、双極性障害の概念の大幅な拡大をしようとする試みである。

本論文で加藤敏氏は、精神力動レベルの連続性を認めた上で、病前のパーソナリティ構造において統合失調症と双極性障害には質的な違いがあることに注意を向ける。統合失調症の患者は社会技能、引いては俗世間で生きていくための自然な自明性に難点があるのとは裏腹に、真・善・美への「自然な自明性」、無限なるものに対する優れた感性を持つとし、逆に双極性障害の患者は他人との感情的な共感性に卓越したものを持っており、俗世間への自然な共鳴的参入の能力に長けているとする。

その上で、現象学的観点および構造論的精神分析の観点に立つと、統合失調症と双極性障害には、人格構造と連動する形で病態・症状レベルでも明らかな質の違いが浮かび上がってくるという(下図)(*4)。

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統合失調症と双極性障害の段差と連続性

-論文の要点ここまで-

ただ統合失調症そのものが異なる疾患の集合体とする考え方もあり、未解明な部分が多い。さらに双極性障害については近年になって双極スペクトラムの考え方が広まり、統合失調感情障害の双極型を双極性障害1/2型とする考え方もある。

この疾患の病態を解明することは、今後の精神医学の発展の方向性にも影響を与えるほど重要なことだと考える専門家もいる。


*1:特定の疾患または障害に対して個体の感受性を高めるまたは素因となる生殖細胞系の突然変異のこと。
*2:双極性障害Ⅰ型を指していると思われる。
*3:ある桁数の数字を聞いた後で、先頭から、および逆から正しい順番で思い起こすことができる桁数を測定するテスト。短期記憶の能力を調べる。
*4:加藤 敏、第106回日本精神神経学会総会教育講演論文より引用。